歌   信 濃 路 の 旅

詩歌信濃路の旅

 

 秋 蚊 帳 に

佐 藤 春 夫


秋蚊帳に枕上の詩成らず

燈を消して眠も成らず

夕まぐれ風立ちて

黄なる草吹きなびけしが

立科に立ちし雲

雨となり板びさし打つ

山の家

あはれなりその主

夢にしていたずらに句を練れる。

落  葉  松 

北 原 白 秋


         一  からまつの林を過ぎて、

            からまつをしみじみと見き。

            からまつはさびしかりけり。

            たびゆくはさびしかりけり。

             

             …………中略…………


         六  からまつの林を出でて、

            浅間嶺にけぶり立つ見つ。

            浅間嶺にけぶり立つ見つ。

            からまつのまたそのうへに。


             …………中略…………


         八  世の中よ、あはれなりけり。

            常なけどうれしかりけり。

            山川に山がはの音、

            からまつにからまつのかぜ。


 秋 和 の 里

   伊良子 清白


月に沈める白菊の

秋冷(すさ)まじき影を見て

千曲少女(おとめ)のたましひの

ぬけかいでたるこゝちせる


    (以下略)