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最近読んだ本(2002年)


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★★ 変身 東野圭吾氏 推理小説ではなく、完璧な社会派小説である。臓器移植と脳死問題をテーマとし、筆者にしては珍しく重い結末である。心臓や肝臓の生体移植は行われているが、脳の移植をするといったい人格はどうなってしまうのだろう。脳死状態だとすれば、ドナーの人格は移植されないのか、それとも、”変身”してしまうのか。”変身”するとした場合、そこにあるのは生き延びたという幸せか、それとも人格破壊という悪夢か、重厚なテーマである。 68
★★ 小説ペイオフ 通貨が堕落する
とき
木村剛氏 不良債権処理強硬派として、竹中大臣とともに有名になった若きエコノミストの著作である。中身は、経済とか金融とかを本格的に学んでいないとほとんど理解できない。素人にもわかるのは、国債という打出の小槌にばかり頼っていると、通貨の価値が下がり、やがては猛烈なインフレに襲われるのだろうということだ。そのとき、ダラーリゼイションが発生し、国内通貨は円ではなく、ドルになってしまう・・・・延命策を施すよりも潰すべきものは潰すしかないという気にさせられる。 67
★★ ゴサインタン 神の座    
 
篠田節子氏 表題のゴサインタンとはネパール語で”神の住むところ”という意味の山の呼称。同じ山をチベットでは、”家畜が死に絶え、麦も枯れる地”という名が付いているという。物事には表裏があり、同じ土俵でなければ、どちらかが一方的に正しくて、どちらかが間違いだと決められることは極めて少ない。この土俵には文化や風習、伝統や宗教などが含まれる。ネパール人の伴侶を強引に妻にした日本人男性の、土俵巡りの旅(心模様の変遷)を描いている。 66
★★ 学生街の殺人       東野圭吾氏 フリーターの主人公に、”製造業のサラリーマンは嫌だ”と最初に言わせておきながら、後半では”組織の中に入るのも、そんなに悪いことじゃない”、”彼等(製造業のサラリーマン)を尊敬しても侮辱する資格など全くない”と言わせる。この心模様の変化を殺人推理に絡めながら展開していく。製造業でのサラリーマン経験のある作者ならではのストーリーである。少しだけ残念なのは、”犯人”の心模様がよく見えないことだけである。 65
★★★ 宿命 東野圭吾氏 「あとがき」によれば作者は最初にエンディングを考えついたらしい。確かに面白い結末であるが、そこに至る物語(ストーリ)の方がもっと面白い。作者はエンジニア出身でありながら、アナログ的な心理描写がとっても上手いと改めて感じる。一応、ジャンル的には推理小説という範疇だろうが、タイトルの由来になっている男同士のライバル(宿敵)関係における双方の心模様、また、夫婦のすれ違う心模様等が描かれている。         64
★★ 同級生 東野圭吾氏 教師を全く信用していない”俺”が主人公である。暴力はないが、教師に対する悪態は半端ではない。根底に流れるモチーフは、学校あるいは教師に対する異議申し立てなのではないかと思う。自分の昔を思い出すと、教師を信用していなかったという点においては同じだが、これほどまでに反発することにエネルギーを使わなかった。その違いが感情移入において壁となり、”頑張れ”と応援する気分よりも、”いい加減にしろよ”という気分が残った。歳をとった証拠か。 63
★★ そういうふうにできている さくらももこ氏 その大半は、自分という生命体の中で、子という別の生命体を育む過程での騒動を描いているが、印象に残っているのはその他の部分である。そこでは、どういうわけか哲学的思考の世界を彷徨う。”「意識」が肉体の一部品である「脳」を使い言語で思考したり感情や情報を伝達したりしてこの世で生活していくという、その「意識」が脳を使用している状態が「心」なのである。”−ちびまるこちゃんは元来哲学者であったとみるべきか、あるいは妊娠という自然の摂理がやはり人としての自然な思考を促したとみるべきか。 62
★★★ 秘密 東野圭吾氏 これはお薦め。98年のベストセラーだそうだ。哀しい中年男の物語。その男には二人の大切な家族がいる。奥さんと娘さんだ。ある事情により、二人を同時に愛することはできない。このジレンマの中で、男の揺れる思いを描く。大切なモノは、大切であればあるほど失ったときの悲しみは大きい。だからといって、大切なモノから逃げるのはつまらない。喜んで、たまには怒って、ときには哀しんで、そして楽しむのが基本形なのだろうと思う。 61
探偵ガリレオ 東野圭吾氏 著者は電気工学科出身のもともとはエンジニアである。だからこそ、科学者に謎解きをさせる、このようなストーリが書けるのだろう。短編5作から成る連作ミステリーとなっているが、短編であるが故に、トリックに重きが置かれており、『悪意(NO59)』『秘密(NO61)』のような心模様を読む楽しさがない。しょうがないと言えばしょうがないが・・・。科学を題材にする場合、その記述は難しすぎると一般読者は付いていけず、易しすぎるとウソっぽくなってしまう。 60
★★★ 悪意 東野圭吾氏 推理小説でありながら、犯人探しをするのではなく、動機探しの推理である。なぜ殺人に至ったのか−偶発的・衝動的なのか、あるいは確信的・計画的なのか。二転三転しながら、刑事は真相を突き止める。加害者と被害者がお互いに憎み合っているケースはわかりやすい。しかし、加害者が一方的に恨んでいるケースは、その動機はシンプルではあるが根深いものとなる。世の中では意図せず人を傷つけてしまうことがあるものだ。怖いことである。 59
★★ チェンジ・ザ・ルール エリヤフ・ゴールドラ
ット氏
TOC理論をテーマにした啓蒙小説第三弾。今回はERPパッケージのベンダーが主人公である。大企業にはほぼERPが浸透している一方で、中小企業相手では商売にならず、苦しんでいる状況下で、対費用効果を利益で表すことを推進し、ソフトウェアではなくバリューを販売するように考え方を変えていく。ERPに利益を生むための機能を追加する。ただし、それを活かすも殺すもユーザ企業がこれまでのルールを変えることができるかどうかに係っているとする。現実はそんなに上手くはいかないけれども、参考になる部分はある。 58
明日のリスクは見えています
か?
柴田励司氏、他 リスク管理、危機管理の重要性が喧伝されている今、会社経営におけるリスクとは何なのか、どういうものがあり得るのか、それに対してどう考えておけばいいのか、といったことへのひとつの手順を記している。啓蒙を狙っているので小説という形をとっているが、やはり小説としては読むに耐えない。また、外部コンサルタントの優秀さをいたるところで強調していることも鼻につく。著者の所属するコンサルティング会社の宣伝活動の一貫として書かれた本になってしまっている気がする。  57
★★ 小説消費者金融 高杉良氏 実在するシ−シーシー債権回収株式会社の玉木英治社長をモデルにしたものである。弁護士法で定められている弁護士の業務範囲を犯すことを非弁行為と言うらしい。債権回収は基本的に弁護士の仕事である。弁護士会の嫌がらせにも屈せず、債権者(クライアント)・債務者(カスタマー)双方のために、信念を持って仕事をする主人公を描く。その信念のひとつに、貸倒予定分を貸出金利に上乗せするのは健全なクレジット社会ではない、という思いがある。 56
月光の東   宮本輝氏  久しぶりに著者の本を読んだ。その昔、「優駿」を読んで感動し、映画化されたそれを見るために、持っていなかったテレビとビデオを買った。ストーリーテラーであるが故に面白く感じていたが、この作品はいわゆる”純文学”にありがちな、凡人には何を意図しているのかよくわからない内容だ。話としてはとても中途半端に感じてしまう。また、主人公の女性の名前表記を”米花”と”よねか”で使い分けていることが気になってしょうがなかったが、最後までその謎は明かされない。 55
★★ 魔性の子   小野不由美氏  Amazon.comで著者の作品がいくつもベストセラーとなっているので読んでみた。ファンタジーとホラーをミックスした感じでありながら、文体は比較的堅い。繰り返し出現する”人が人であることは、こんなにも汚い”というフレーズが印象深い。栗本慎一郎氏や北野武氏なども同様なことを言っている−”人は他の生命を喰らってしか生きていけない”。ホラーな世界を描きながら、表層的なホラーに関する描写が比較的少ないことが読み応えに通じているような気がする。 54
男の美学
 ビジネスマンの生き方20選 
佐高信氏  20編の中に「長い恨みの歌」という詩が含まれている。「サラリイマン」「続・サラリイマン」といった風変わりな詩集を出版している岡見裕輔氏の手による。”きみはなんのために働くのか。おれはおれ自身のために働く。またまた悲壮感溢れる熱情と目的異常化の原理”−自分のために働くというのは格好いいし、文句を言われる筋合いのない理由である。が、しかし、それに悲壮感が漂っているとすると(多くの場合はそうだ)、やはり異常である。  53
理由     宮部みゆき氏  とにもかくにも固有名詞の登場人物が多い。外国の小説などは表紙の裏側に登場人物一覧があったりするが、この本にはそのような親切な配慮はない。もっとも、推理小説であるが故に最初から登場人物を明かすわけにはいかないのかもしれない。No1(↓)で、11人の登場人物を多いと言って嘆いているようではこの小説は読みこなせない。残念ながら、解説にあるような”至福の時を過ごして”という読後感はなかった。  52
★★★ 神々の山嶺(上・下) 夢枕獏氏 世界最高峰エベレストに何度も挑戦し、帰らぬ人となったマロリーは”Because it's there”とその山に登る理由を答えている。この本の登場人物は”ここに、おれがいるからさ”と山に登る理由を述べている。誰に命令されるでもなく、嵌ってしまうことがある。その先に”死”をどれだけ意識しているか、という点において違いはあるが、登山家の滑落死と一部の過労死の根は同じじゃないかと思った。強制的に働かされた結果の過労死も存在するが、自分で嵌ってしまった結果の過労死も多い気がする・・・・・。少々不謹慎なアナロジーか?! 50
51
★★ 粉飾決算 高任和夫氏 "恐るべき決算の闇に挑む男の勇気と真価”という帯広告に魅せられて読んだが、中身はちょっと違う。ちょっとだけ騙された気になる。売れないコピーをつけるとすれば、”道を踏み外したサラリーマンの再生日記〜企業生活と家庭生活”という感じ。解説にも”女性読者が楽しめる経済小説”とある。ハードボイルド風の帯にはやっぱり違和感がある。著者の作風とは違うと思うが、なぜこれを許したのだろう・・・謎である。 49

青年社長(上・下) 高杉良氏 居食屋「和民」チェーンを経営する渡邊美樹社長の学生時代から
現在に至るまでの足跡を追う実名小説。学生時代から社長になる
と公言していた渡邊氏は世のため、人のために会社を経営したい
と言う。成功の陰に失敗の歴史がある−だからこそ、高杉良氏は
小説にしようと思ったのだろう。単なる成金のサクセスストーリでは
ないが、若干”美しすぎる”感じがする。最近流行の情報隠蔽・操
作があるのではないかと邪推してしまう。
48
47
進化経済学のすすめ
 「知識」から経済現象を
読む
江頭進氏 ダーウィン的進化論における淘汰は他よりも秀でているから適者生存が発生するのではなく、環境変化に中立であっただけだとする。共産主義に対する資本主義をこのスキームで語る。また、ダーウィン的進化論の観点から見ると、均質な社会では”進化”が発生しないことになる。そして、著者は言う。”グローバリゼーションの波の中で、人為的に加速されていく世界規模での競争は、われわれに多様で豊かな世界などもたらさないということは明らかである。”  46
★★  人間にとって経済とは何
飯田経夫氏 経済学はアダム・スミスからマルクス、そしてケインズという系譜を経て、今また、アダム・スミス流の「自由放任主義」に戻っていると言う。構造改革、規制緩和、市場開放等の合言葉はいずれもそれを裏付けるものである。市場主義の悪として、@搾取、A過労死、B侵略、C環境破壊を挙げている。ベルリンの壁崩壊をトリガーに息を潜めているマル経を憂い、再びマルクスのような抵抗勢力が生まれないと経済学は死ぬと著者は案じている。どこの世界も”独占”はよろしくないようだ。 45
★★ 首切り ミシェル・クレスピ
テーマは「OUT!(NO39、40)」に似ているところがある。非日常の世界で、狂った人々を描く。この非日常の設定がユニークである。リストラされた人々を集め、再就職のための適性診断合宿を湖に浮かぶ小島で行う。チームに分かれ、それぞれが架空の会社の経営シミュレーションを行う。各チームはスパイ行為を手始めに、だんだんと足の引っ張りあいを始めることになる−そして、非日常にどっぷり浸かった人々は狂気の世界へと突入する。もしかして、テレビゲーム世代に対する警鐘を込めているのか・・・ 44
ピープルウェア
 ヤル気こそプロジェクト成功の鍵
トム・デマルコ氏 「ゆとりの法則(NO34)」と同一著者によるものである。結論から言
うと、”管理者は部下を管理しようと思ってはいけない”と述べてい
る。例えば、部下の服装の乱れ等を注意するのは、”管理者であ
ることを誇示しようとしている”だけだと喝破する。管理者は何をす
べきか−部下の仕事の邪魔をしない/無謀なスケジュールを立て
ない/仕事のしやすい環境を提供する、というようなことだと言
う。・・・そうだとすると、管理者の仕事はちっとも楽しいとは思えな
い。
43
アルプスの谷・アルプスの
新田次郎氏 著者が昭和36年に初めてスイスの山々を訪れた時の紀行。文章
の端々から念願のアルプスに真近で接した喜びが伝わってくる。
スイス旅行を計画し、スイスの地理が頭に入っている人にはお薦
めである。スイスの美しさは創られたものであると論じる著者に同
感。牧草地を確保するために、氷河によって流されてきた岩石を砕
き、取り去ったのはそこに住む人々である。また、その美しさを保
つための努力を惜しまないのもまたそこに住む人々である。
42

アイガー北壁・気象遭難 新田次郎氏 全14編からなる山岳短編集。山を愛する人々の行動と思いを少し
だけ垣間見ることができる。”なぜ山に登るのか”−立ちはだかる
困難を乗り越えた時の”よろこび”を求めて、ということなのだろう。
その”よろこび”を知った人は次の困難を求めることになる。その対
象は人によって、山であったり、海であったり、競技であったり、試
験であったり、なかには仕事であったり、・・・するのだろう。難しい
ことが好きな人は結構多い。とっても幸せな人達だと思う。
41



 
OUT!(上・下) 桐野夏生氏 普通(この本の解説者に言わせると”下層”)の主婦達が、非日常
の世界に自ら飛び込んでいく。”殺人”で非日常の世界へといざな
い、”死体損壊及び遺棄”でその世界から抜け出せなくなる。結
構、怖い。何が怖いかというと、日常の世界での「常識」とか「論
理」とかが一切通じない点−現実社会においても”毀れている”人
が増えている気がする。”毀れている人”と共存するためには、自
分も”毀れちゃう”か、近づかないようにするか、どちらかしかなさそ
うだ。
39
40
アトランティスのこころ
(上・下)
スティーブン・キング
アメリカの音楽やテレビに精通していないと、比喩を読みこなすこ
とができない。例えば、”<リトル・ドラマー・ボーイ>のメロディ
で・・”、”テレビドラマの《メイベリー110番》の少年オピー・テイラ
ー・・”、”テレビのコメディドラマ《となりのサインフェルド》・・”といっ
た言い回しが数頁に一箇所くらいは出現する。読みづらかった。モ
チーフになっているベトナム戦争とそれによる心の傷に関するとこ
ろは、非常に興味深かったが。
37
38


旅行じゃわからぬ香港生
ねもと健氏 『徒然日記(2002年6月8日付け)』でも紹介している香港駐在時
代の同僚の著作である。慣習の違いはいろんな局面で顔を出
し、”当たり前”とか、”常識”がいかに根拠レスのものであるかを
思い知らされる。香港人の同僚と仕事をしていたとき、”It’s com
mon sense!(常識だろ!)”と言ったあとに、”in Japan”と付
け加えるようになるまでにそんなに時間がかからなかったことをこ
の本を読みながら思い出した。ちなみにおがわ亭の住人の登場回
数は3回(固有名詞1回、”日本人”2回)。
36

神様 川上弘美氏 不思議な世界が展開されている。かといって、怪しいとか不気味と
か、そういうことはなく、どちらかというと”ほんわか”している。マン
ションに熊が住んでいたり、壷の中に人が住んでいたり、人魚を浴
室で飼っていたり、・・・・よくこんなことを思いつくなぁ〜と感じさせ
る連続技に降参である。この不思議な川上弘美ワールドのファン
も多いらしい。ロジカルシンキングに疲れた頭には清涼剤となる。
  
35




ゆとりの法則
 −誰も書かなかったプロジェクト管
理の誤解
トム・デマルコ氏 普段ハウツーものは読まないが、これは面白かった。リスク管理
のチェック項目のひとつとして、『プロジェクト全体に完成予定と完
成目標の両方があり、予定と目標が大きく異なっているか』という
項目がある。予定と目標が同じである場合、リスク管理が機能し
ていないと断言する。この考え方は、”できて当たり前”だが、結果
としては”失敗”することが多い世界からの脱却の第一歩だ。スポ
ンサーおよびオーナーとの折り合いをどうつけるか−これが課題
だ。
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小説:下山事件 
 謀略の鉄路 
金井貴一氏  昭和24年の「下山事件」を知っているだろうか−国鉄総裁の下山
定則氏は報道されているような”自殺”ではなく、”他殺”でもない
と推理する。バラバラ死体と完全密室から様々な可能性が浮上し
ては消えていく。ここに、GHQとその内部の権力闘争と、中国共
産党に破れた国民党が絡み合う。権力によって、”消される”こと
がありえる時代とはなんと恐ろしいことか・・・ 
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開け! 勝鬨橋 島田荘司氏 おちこぼれ老人達が世のため、人のために事をなす。お金もなく、
親類縁者からは見放され、常に蔑まれている。当然のように世の
中をはかなんで、”夢も希望もない”人達だ。が、しかし、ある事件
を発端に、自分のためではなく人のために立ち上がる。何かをや
ろうとする意思とそれをやり遂げる過程こそが、人のレゾンデート
ルのひとつとなるのだろう。頑張れ! シルバー。  
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貧困の克服
 アジア発展の鍵は何か
アマルティア・セン氏 「経済学と哲学の橋渡しを果たした」功績によりノーベル経済学賞
を受賞したインド出身のセン氏は、”民主主義の国で飢饉は発生
したことがない”と指摘し、『人間の安全保障』の大切さを論じる。
そして、経済偏重の『発展』ではなく、『人間的発展』を説く。たしか
に、”豊かさ”の指標としてGNP、経済成長率しか存在しないよう
な国はいかにも貧しい気がする。
31
彼は残業だったので 松尾詩朗氏 島田荘司氏の「占星術殺人事件」の影響を受けた、「原子を裁く核
酸(↓NO11)」の作者の処女作である。トリック自体は「占星術殺
人事件」を超えるものではない。作者の本業がSEなので、”残業
することが仕事ができること”のような錯覚が存在する、この業界
の特徴を描いていて面白い部分がある。キョウビ、ソフトウェア開
発産業ほど労働集約的な仕事はないだろう。
30

眠れぬ夜を抱いて 野沢 尚氏 まさに今、テレビドラマとして放映されているらしい(テレ朝木曜日
夜9時)。10年前の怨恨を引きずる主人公と、10年前の後悔を引
きずる二人と、そうした過去に囚われた人達を現在支える人々と
が交錯する。「復讐」とは非論理的なものであろう−それを心の世
界に留めることができずに、論理に支配された現実世界に展開す
ると厄介なことが起こる。が、しかし、それがロボットではなく、”熱
い”人間たる所以かとも思う。だから、ドラマになる。
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”ひとが否定されないルー
ル”
 ―妹ソマにのこしたい
世界"
日木流奈氏 NHKスペシャルで放映された「奇跡の詩人」の主人公である脳障
害児の著書である。番組の中で、著者が”アバウトな”という表現
を使うところで、口述するオフクロさんも、ワープロするオヤジさんも
その言葉を知らなかったというヤラセみたいなシーンがあった(NH
Kの演出ミス?!)が、その”アバウトな”という表現をこの本文中
に見つけた!−それが一番印象に残っている。と、いうこと
は・・・・・
28



光の雨 立松和平氏 これほどに”暗くて”、”重い”小説を読んだのは久方ぶりだ。殲滅
戦では、やらなければやられる、というヤクザな論理が真である。
外部の敵に対する準備として、火器を手に入れることに一生懸命
であった「組織」はやがて内部にその眼を向け、大「粛清」大会を
始める。陰惨で、かつ、悲惨な私刑(リンチ)の場面に差し掛かる
と、深夜であるにもかかわらず眼が冴えてしまう−これが『連合赤
軍』の実態だったのか。
27

小説巨大(ガリバー)証券 高杉 良氏 ”丸野証券”という名前で「野村證券」が、”日和証券”という名前
で今は亡き「山一證券」が登場し、顧客争奪戦を繰り広げる。が、
しかし、勝者はいつも”丸野”である。戦う男の頑張りを応援したく
なる一方で、巨大な壁の前では結局はなすすべも無い”無力感”
が残る。巨大な壁は決して、自分から直接相手を押しつぶすこと
はしない。権謀術数の世界のいったんを垣間見る思いがする。
26



債権者会議  山口 昭氏 著者が社長を務めていたある中小企業の倒産劇を実名で綴った
記録。中小企業では金融機関から融資を受ける際、個人保証を行
うことが多いらしい−このとき、会社の倒産は個人破産を意味し、
個人破産は家庭を含めた全生活の破綻を意味する。リスクを広く
社会全体で負担できるような仕組みが存在しないと、敗者復活は
あり得ない。これは民事再生法施行前の話なので、少しは変わっ
ているのかもしれないが。
25


 
小説新巨大証券(上・下) 高杉 良氏 MOF担という仕事は銀行にのみあるのかと思っていたら、証券業
界にもあるようだ。旧大蔵省に日参し、いろいろな情報を仕入れ、
夜や休日には官僚をこっそり接待する。この本は著者にしては珍
しく、淡々と主人公(旧”山一証券”マン)の日常を描いている。勇
気が出るとか元気になるとかいう類の本ではないが、企業社会の
中のどろどろしたモノの決まり方はナルホドと思わせる。
23
24
企業社会と会社人間 宮坂純一氏 学問の世界では、”会社人間”の定義があるらしい。@職業能力
の展開の場が特定企業に限定、A労働条件が主として経営者の
裁量で決まる、B労働時間の割合が高い、C生活意識の中で、
広汎な企業の要請を何よりも優先、だそうだ。ともあれ、特定企業
以外の社会生活におけるコミュニティを持たないことと、仕事にお
ける(日本的な)曖昧な責任が、無限責任となることによって、”会
社人間”を生み出しているような気がする。
22
連合赤軍「あさま山荘」事
佐々淳行氏 TV中継の視聴率が90%近かったという「あさま山荘」事件。ここ何
年間かテロという言葉を耳にすることが確実に増えてきたが、30
年前はもっと日常茶飯事。当時は、マスコミ・世論が学生(テロリ
スト)寄りだったらしく、筆者の子供が警察官の子という理由だけ
で学校の先生から差別されたというから驚く。四半世紀を経てよう
やく落ち着いて語れるようになったということか。(♀)
21


東大落城
−安田講堂攻防七十二時間
佐々淳行氏 学園紛争の天王山とも言うべき”安田講堂”での攻防に際して、著
者が警備第一課長として陣頭指揮を取ったときの記録である。塩
酸(!)、硫酸(!)、ガソリン、火炎ビン、コンクリートブロックなど
放り投げて(”学生自身以外は何でも降ってくる状態”)、機動隊の
進入を阻止しようとする当時の学生達の姿にはあらためて驚い
た。いったい、どうしてそこまで熱くなれたのだろうか?
20

飛鳥のガラスの靴 島田荘司氏 全部読み終わってから、昔読んだことがあることを確信した。人の
記憶などイイ加減なものである(私だけ?)。作者渾身の騙しのア
イテムに関しては、すっかり忘れていたが、郵送されてきた”右
手”(冒頭シーン)の秘密と、遺体を捜し出すラストシーンのみは”
絵”として頭の片隅に残っていた−
19
香港領事 佐々淳行
−香港マカオ暴動、サイゴン・
テト攻勢
佐々淳行氏 初代内閣安全保障室長である著者は、30歳代の後半3年超を香
港で過ごした。初版のタイトル通り、中身は「香港領事動乱日誌」
である。やや自慢話が鼻につく面は否めないが’60年代後半の
東南アジアの「動乱」状況を知ることができるとともに、「便宜供
与」と呼ばれる海外駐在員の税金によるツアーコン的職務の実態
を伺い知ることができる。
18

落日はぬばたまに燃ゆ 黒岩重吾氏 昨今の食品業界では産地偽造や、賞味期限改ざん等が問題とな
っているが、医薬品は使用期限を1年以上残して、市場から消え
ていく。ここに目をつけて、”トンビ”と呼ばれる非合法の卸がいた
(いる?)そうだ。製薬会社から古い薬を安く仕入れて、悪徳病院
に安く卸す。悪徳病院は保険で正規薬価を請求する。患者にも安
く提供するのであれば、WIN−WINの関係と言えなくも無い
が・・・・
17

ザ・ゴール2 −思考プロ
セス
エリヤフ・
ゴールドラット氏
企業のゴールを”お金儲け(対「株主」)”、”雇用維持(対「従業
員」)”、”市場充足(対「社会」)”とする。欧米では”お金儲け”以
外のゴールを真剣に模索している(ただし、ウォール街は除く!)。
前作「ザ・ゴール」に比して、、啓蒙書としての比重を意図的に増し
ているようだ。その分、小説としての面白さが減ってしまったような
気がする。
16
天啓の宴 笠井 潔氏 何人もの作者を登場させて、ひとつの小説を構成し、さらにまた別
の作者によってそれを批判させる−そして、本当の作者(笠井氏)
はすべてを操っている。このような形態を「メタフィクション」と呼ぶ
のだそうだ。とっても難解−パズル解きのような楽しさは幾分ある
が−である。通勤電車に揺られながら、疲れた頭で読み込むのは
なかなか厳しい。 
15

果つる底なき 池井戸潤氏 『会社はお前みたいな奴が一番やりにくいんだ。出世に血眼にな
る連中とは違う。かといって、安穏とサラリーマン生活を続けてい
るわけでもない。組織にへばりついていないと路頭に迷うという悲
哀もない。』・・・・元サラリーマンの作者は自分の昔の姿を写して
いるのかもしれない。そういうサラリーマンも増えている気がする。
 
14

仕事のなかの曖昧な不安
―揺れる若年の現在
玄田有史氏 仕事をする上での”喜び”ってなんだろう? きっと、ビジネスパート
ナーの”喜び”に勝るものはない。その”喜び”に触れる機会が少
ないことで、閉塞感あるいは無気力が蔓延していく。そんな気がす
る。著者の言う”自分で自分のボスになれ”というメッセージは、そ
の”喜び”をダイレクトに受け取れ、という意味もあるのかもしれな
い。
13

会長はなぜ自殺したか
−金融腐食=呪縛の検証
読売新聞社会部 97年に始まった政・官・金融機関の一連の利益供与事件で逮捕
者45人、自殺者が6人。総会屋への不正融資、大企業や政治家
への不正利益供与、お役人への接待、その金額は想像をはるか
に超えている。我々一般庶民は超低金利にも暴動もおこさずまじ
めに働いて納税しているというのに・・(♀)
12

21世紀本格
 書下ろしアンソロジー
島田荘司氏 島田荘司氏は『眩暈』以来のファンである。今回のアソンロジーの
中では松尾詩朗氏の「原子を裁く核酸」が一番印象に残ってい
る。冒頭のダイイング・メッセージが解読される中での、破天荒で
はあるが、”なるほど”と思わせる論理性には驚くばかり。
11
世界がもし100人の村だ
ったら
ダグラス・ラミス氏 以前に、同氏の『経済成長がなければ私たちは豊かになれない
のだろうか』という本を読んだことがあるが、やはり通じるものがあ
る。世の中、”お金のことばかり考えているとダメになるよ”ってメッ
セージ。永遠の経済成長(拡大再生産)はねずみ講と同じじゃな
いのか−素人の私見
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沈まぬ太陽(1〜5) 山崎豊子氏 事実か虚構か、で議論が沸騰しているようであるが、小説として
読んで十分に堪能できる。特にアフリカ編がお薦め。丹念によく調
べたものだ。御巣鷹山の事故調査のため、筆者はアメリカのボー
イング社にも足を運んだそうな・・・すごいパワーだ。
5
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再生(上・下) 
 続・金融腐食列島
高杉 良氏 この再生の物語には、顧客の視点が全く存在しない(ある時代の
金融業界とはそういうものだったということ?!)。 なぜ企業はそ
うまでして生き残らなければならないのか、その延命のために社
員が苦しまなければならないのか・・・・
3
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菊次郎とさき ビートたけし氏 さきさんがたけしさんにお金を無心する。成功者たけしさんにとっ
て、オフクロさんへの数十万円のお金はどうということはないが、
オフクロさんはそれをいったい何に使うのか・・・小説家ビートたけ
しも映画監督北野武同様、うまい。
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再生の朝 乃南アサ氏 想像力のない人には不向きか。11人の登場人物それぞれが特
徴ある設定なのだが、誰が誰なのか、読んでいる途中でわからな
くなってしまう(私だけ?)・・・TVだともっと面白いかもしれない。
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