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<2025年> 







★★ ブルシット・ジョブの謎 酒井隆史氏 2020年に亡くなった米国の経済人類学者であるデヴィット・クレーバー氏が言い始めたとされるブルシット・ジョブ。その著作の翻訳者である大阪公立大学教授の酒井氏が、”クソどうでもいい仕事はなぜ増えるのか?”について解説する。労働は義務であり、労働はそれ自体に価値があるという考え方の下で、お金を含む数字を崇拝する今の世の中が相まって、ブルシットジョブが増え続けているということらしい。フォーディズム的妥協(生産での従属を消費での自由で贖う)をその根源のひとつと見る。古代より、富が生産の目的であったことはなく、お金のために人間が道具のようになっている近代に疑問符を投げかける。なかなか興味深い。 39
幕末志士の大誤解 夏池優一氏 「幕末のヒーローたちには仰天の裏の顔があった!」という帯広告につられて読んでみたが、あまり目新しい話はなかった。ヒーローたちが司馬遼太郎氏や子母澤寛(こもざわかん)氏がよって美談とされ、それが人口に膾炙するようになった、ということは広く知られている。人気のある西郷隆盛を悪さ加減を指摘し、人気のない大久保利通の温かさを掘り起こす。テロリスト松陰の教育者としての実績を強調し、不人気の伊藤博文のリーダーとしての実績を示す。強面組長である近藤勇の温かなエピソードを掘り起こし、人気のある土方歳三や沖田総司の残酷さを指摘する。当たり前ながら、人それぞれ、いい面もあれば悪い面もある。 38
★★ 「幕末維新」の不都合な真実 安藤優一郎氏 「江戸城無血開城」がことさら美談として広まっているのはなぜか? 新政府側からするとそこに”不都合な真実”が存在するからだとして、それを暴く。実際には決して、穏便かつスムースな開城だった訳ではないようだ。幕府側の兵力は侮れないものであったし、江戸での”官軍”の評判もすこぶる悪いものであったようで、新政府側はいったん追い出した徳川家に江戸城を返還することも考えていたらしい。筆者によれば、彰義隊の壊滅が天下分け目であり、それまでは特にすったもんだしていたらしい。西郷隆盛と勝海舟の駆け引きは無血開城後も続いていたのが実際のところのようだ。 37
★★ 明治天応(1〜6) 山岡荘八氏 治維新後の、薩長中心の明治政府と朝廷との間でのやりとりや、明治天皇自身の考えや行動に興味があったので、本書を手に取った。孝明天皇を父とし、中山慶子(よしこ)を母とする。慶子の父は中山忠能(ただやす)。忠能の子には中山忠光(天誅組の変ののち、長州に逃れ、暗殺)がいる。明治天皇の幼き時代に養育掛として仕えた田中河内介に懐いていたという。その田中は寺田屋騒動ののち、薩摩藩によって斬殺された。本書は、明治天皇が即位するまでの間に起きた出来事を中心にした小説であり、明治天皇自身についての記述は極めて少ない。あてが外れた。成人してからの明治天皇について知りたいという思いを新たにした。 31
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★★★ 威風堂々(上・下) 伊東潤氏 大隈重信と山縣有朋は、同じ1838年生まれで、1922年1月に大隈が、2月に山縣が連れ立つようにこの世を去っている。数十万人が参列した「国民葬」であった大隈に対し、山縣は寂しい「国葬」であったらしい。清国保全論を唱えた大隈は、軍拡一辺倒であった山縣とはことあるごとに対立していたという。薩長閥による政治と、立憲君主制による政治では手段は大きく異なるが、ともに、日本のために、という点では似ていたところも多かったのではないかとも思う。1898年の第一次大隈内閣(隈板内閣)はわずか5か月の短命であったが、1914年の第二次大隈内閣は2年以上続いた。立憲改進党から進歩党を経て、憲政党、さらには憲政本党を通じて明治時代の日本の近代化に大きく貢献したことは間違いなさそうだ。 29,
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ジョブ型人事の道しるべ 藤井薫氏 パーソル総合研究所による『働く10,000人の就業・成長定点調査2024』を引用しながら、「ふつうの会社員」のキャリアについて論じる。ジョブ型人事が浸透し、ずっと同じ仕事を担当していれば昇給の見込みはないので、キャリア自律に向けて”機会を活かそう”とする。当たり前と言えば、当たり前の話だろう。このキャリア自律をどうやって達成するのか。年功序列の廃止、役職定年の廃止、フツーに行われる昇給降給、ますます拡がる中途採用、、、「選び、選ばれる」時代において具体的に何をすべきなのか、踏み込んだ提案を期待していたが見当たらなかった。「ふつうの会社員」はそのほとんどが「静かな退職者」になってしまうような気もする。 29
★★ モチベーション3.0 ダニエル・ピンク氏 モチベーション1.0は、生き残るための行動を促すもので、生理的動因がそのほとんどである。モチベーション2.0は、報酬を求める一方で罰を避けるという動機付けであり、いわゆるアメとムチ。そこには大きな欠陥があると指摘する。実は成果が上がらないこと、内発的動機付けを失わせること、よって創造性を蝕むこと、また、ごまかしや近道、倫理に反する行為を助長してしまうこと、そして、依存性があることなどがあるという。育成や教育も含めて、内発的動機付け=モチベーション3.0にフォーカスすべきと力説する。そこでは、自律、熟達、目的がキーとなる。達成目標ではなく学習目標に向かって、自分自身の裁量で活動し、フロー体験を得ながら、成長を実感を得るように促すべき、と言う。ビジネスの世界でも、一人親方や、非営利組織では適用しやすそうだ。 28
★★ 山県有朋 半藤一利氏 山県有朋の国葬は参列者が少なく寂しい限りだったらしい。松下村塾生名簿に名を連ね、大正11年まで生きた山県は、後世に大きな影響を与えた。民・軍にわたる官僚制度を作り、統帥権を独立させ、帷幄(いあく)上奏権を確立し、治安維持法を徹底運用し、現人神思想を作り上げた。日清戦争では、川上操六に「オヤジ老いたり!」と言われたりしながらも、徳川幕藩体制以降の日本という国づくりに生涯を捧げたようだ。その中心に天皇を置きながらも、原敬から「山県には皇室もなく国家もない」と言われてしまっている。山県閥から乃木希典、児玉源太郎といった陸軍大将、桂太郎、寺内正毅といった総理大臣も輩出しているにも関わらず、長生きし過ぎてしまったか?! 27
★★ 人を助けるとはどういうことか エドガー・シャイン氏 副題には「本当の協力関係をつくる7つの原則」とある。その七つとは、@支援する側も、される側も準備せよ、A支援関係は公平であれ、B適切な支援が効果的な支援となる、C言動のすべてが人間関係に影響する、D効果的な支援は純粋な問いかけから始まる、E問題を抱えている当事者はクライアントである、Fすべての答えを得ることはできない。ピンと来るものは少ない。筆者の言う支援者の3つの役割モードとプロセスコンサルテーションを行う中で、状況に応じてその役割を切り替えるべし、という話の方が興味深かった。3つの役割とは、コンテンツの専門家(会計士など)、医師、プロセスコンサルタントである。医師と会計士の違いは、クライアントが具体的にやってほしいことが事前に分かっているか否か、である。 26
あなたの「天才」の見つけ方 エレン・ランガー氏 『「丸暗記」も「集中」もしてはいけません!』と説く著者は、ハーバード大学の心理学の教授。”基本を習得すべし”、”集中すべし”、”暗記なしに教育はありえない”、”忘却するのは困ったことだ”、”答えは正しいか間違っているかのどちらかだ”……。そんな学習神話が本当の学びを台無しにしていると言う。マインドレスの状態は息苦しく、囚われの状態と見ることができ、マインドフルな状態であれ、と説く。マインドフルネスとは、心が常に活き活きと対象に向かって開かれ、好奇心が全開となった心である。そうした心が、最も効果的にさまざまな学習を促すらしい。確かにな、と思う反面、基礎を疎かにする、あるいは否定する論調にはもろ手を挙げて賛成はできない気がする。 25
★★★ 静かな働き方 シモーヌ・ストルゾフ氏 最近読んだ「静かな退職」「働かないおじさん」に続けて、今度は「静かな働き方」。この本が一番面白かった。筆者自身がワーキズム教の信者でありながら、ワーキズム教からの改宗をした人々のストーリーを描いている。ワーキズム教は、生活実態としてはワークホリックに近く、日本流に言えば、社畜に近いかもしれないがそれとはちょっと違う気がする。知らないうちに、昇進を含めた他人からの評価を気にしながら頑張り続ける人々であり、資本主義の宿命を背負った人々のようだ。仕事が、働くこと以上の意味を持つようになったのは最近のことだとし、成功=お金持ち、というすり込まれた文化が、その大きな要因のひとつだと言う。なるほど、と思える指摘が多い。 24
★★★ 歳月(上・下) 司馬遼太郎氏 「薩長土肥」と称される中で、肥前藩(=佐賀藩)は幕末から維新にかけて誰が何をしたのか、よくわかっていなかった。佐賀藩出身の有名人と言えば、鍋島直正(閑叟)、大隈重信、副島種臣、江藤新平あたりだろう。その江藤新平の生涯を描いたのがこの作品だ。佐賀の吉田松陰と言われる枝吉神陽の下で学び、その後、脱藩して上京。そこで人脈を形成し、のし上がっていく。維新政府で参議・司法卿となり、薩長体制を崩そうと画策。結果、佐賀の乱に担がれて、梟首。30歳半ばで世に出て40歳で絶命。浮き沈みの激しい人生は良しとしても、結果的には悔いの残る人生であったのではないかと思ってしまう。 22,
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あなたの人生の物語 テッド・チャン氏 帯広告には、『最強の3冠SF』とあり、『世界中のクリエーターたちの愛読書』とあるが、凡人には読みにくい。SFであるが故の、物語の設定・環境を理解するのが難しい。「バビロンの塔」ではそのサイエンス・フィクションについていけず、「ゼロで割る」では数学的な理解が及ばず、「七十二文字」では”名辞”の意味するところが分からず、「地獄とは神の不在なり」では天使の降臨のイメージが掴めず、「顔の美醜について」では登場人物が多すぎて全体把握ができず、、、ということで二回読んだが、それでもよくわからなかった。無念。 21
★★ 問いかける技術 エドガー・シャイン氏 原著のタイトルは、「Humble Inquiry」であり、「謙虚に問いかける」である。「話す」ではなく、「尋ねる(=問いかける)ことが、VUCAの時代には大切であると説く。課題指向の世界では、「話す」に価値が置かれてきたが、「話す」では解決しないことも多く、「謙虚に問いかけて」、良い人間関係を築いて、優れた組織を作るべきだ、とする。エドモンドソンの「恐れのない組織」に通じるところがある。相手に興味をもち、相手のおかげという意識を持ち、ペースを落として、内省し、マインドフルになり、内に秘めたアーティスト精神を呼び覚まし、プロセスを点検・検討する機会を増やすことを実践してみろ、と言う。時間に追われるビジネス現場での、上司としての実践はなかなか難しい気がする。 20
★★ 明治維新の敗者と勝者 田中彰氏 著者は元北海道大学教授で、1928年、山口県生まれの歴史学者。本書の第一版は1980年なので、45年前。採り上げられているのは、吉田松陰、高須久子、坪井九右衛門、大村益次郎、赤根武人、安藤信正、三条実美、勝海舟、徳川慶喜等。後世での人物評価が変遷している松陰。ほとんど知られていない坪井や赤根や安藤。いったんは「勝者」足り得たが、晩年をあまり知られていない三条、勝、慶喜。非業の死を遂げた大村などを掘り下げている。「勝てば官軍」という図式の中で、葬られている歴史がある、と言う。興味深いエピソードも多い。 19
職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門 松尾睦氏 1939年生まれのディヴィット・コルブが提唱した「経験学習モデル」(経験→内省→教訓→実践)をベースに、大学教授である著者は「経験から学ぶ力」を研究している。著者の見立てでは、「思い」と「つながり」を”燃料”にして、「ストレッチ」→「リフレクション」→「エンジョイメント」を回していくのが経験学習モデルということになる。経験学習の実践方法としてのOJTに着目し、どうすればOJTがうまくいくのか、いかないのか、を多くの実践者インタビューを踏まえて、考察している。ただ、まとめとしては、ありきたりな感が否めないのがチト残念。 18
★★ 恐れのない組織 エイミー・エドモンドソン氏 著者は今はやりの心理的安全性というテーマの研究第一人者で、四半世紀前から研究している学者だ。心理的安全性とは個人の資質ではなく集団の規範であり、ぬるい環境ではなく成果志向の環境を指し、これこそが、学習とイノベーション・成長をもたらす基盤だと言う。。自分の意見を積極的には言わないのは日本人だけかと思っていたが、程度の差こそあれ、アメリカを含め諸外国でも同じような状況があるらしい。本書の主旨ではないが、この点が一番興味深かった。(タイトルが「恐れのない組織」である一方、文中は「フィアレス(fearless)組織」で統一されているのはなぜだろう、と気になってしまった。) 17
★★ 働かないおじさんは資本主義を生き延びる術を知っている 侍留啓介氏 「働かないおじさん」というワードに惹かれて、読んでみた。「働かないおじさん」が登場するのは、最後の最後に数ページのみで、『「働かないおじさん」という勝ち組』という小見出しがついている。そこでは、美味しんぼの山岡さんや釣りバカ日誌の浜ちゃんをある意味、理想の働き方だとして推奨している。幻想を抱いて、キャリアアップのためにあくせくしても徒労に終わる可能性が高いので、「使われる側」で、頑張らない生き方が理想的かもしれないと説く。日系大企業に入社し、超一流外資系コンサルファームで仕事をし、その後独立して自分で会社を経営している著者ならではの実感が籠っているのかな、と邪推した。 16
★★★ 醒めた炎(上・下) 村松剛氏 ようやく読み切った。海外の文献も取り入れながら、木戸孝允の生涯を描いた作品。昭和54年から62年まで、8年間にわたって日経新聞で連載されたものがベースになっている(文庫本なら4冊)。早世した松陰や稔麿、玄瑞、晋作等が成し得なかった世の中の大変革に長きにわたって携わってきた孝允。その彼も40歳台半ばで病に倒れてしまう。日記や文献(漢字が難しくて読めない!)などを頼りに整理するのはどれほど時間がかかったことだろう。双方で言っていることが違っていることもしばしば。そこで登場するのが海外文献(英語、フランス語等)を直接読み解いたようでこれまた途方もない時間のかかる仕事だ。登場人物は数百人。覚えきれないが、この歴史超大作は超面白かった。 14,15
静かな退職という働き方 海老原嗣生氏 「静かな退職」という言葉をよく耳にするようになったので、それっぽい本を読んでみた。Quiet Quittingの邦訳らしく、プライベート重視で最低限の仕事だけをする人を指すらしい。高度成長期にはそのような働き方をする人はいなかったのかもしれないが、ここ数十年(少なくとも十数年)はそういう人もいるし、一定の理解もあるように思う。本書はこれから社会人になる人を読者として強く意識しているようだが、彼ら・彼女らは猛烈社員でもなく、
「静かな退職」者でもない、彼ら・彼女らなりの道(例えば、会社勤めはしない、とか)を求めているようにも思う。
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★★★ 働かないアリに意義がある 長谷川英祐氏 2010年に新書として出版されたものの文庫版が2016年に発刊された。北海道大学の准教授である著者は、進化生物学者を名乗っているようだ。「7割は休んでいて、2割はほぼ働かない」というアリの世界を観察によって発見し、その理由を考察する。真社会性生物と呼ばれるアリの組織がどう形成され、維持されているのか、興味深い。人間社会とは異なり、法律や倫理もないところで、かつ、いわゆる指揮命令のない組織がうまく回っているのはなぜか−。進化の自然選択説では説明できない「子を産まずに働く」アリの存在は血縁選択説で説明できるようだ。これまた興味深い。 12
★★ 自由からの逃走 エーリッヒ・フロム氏 本書は、第二次世界大戦の真っ只中、1941年に出版された。著者はナチスに追われてフランスを経て、アメリカに移住したらしい。自由には二つのタイプがあり、「からの自由(束縛からの解放/消極的自由)」を得て、「への自由(積極的自由)」を獲得したとき、無力感と無意味感に苛まれ、依存傾向が出ると言う。「自由」が原因で、不自由になる。「自由」を論じるとき、社会経済的条件、イデオロギーに加えて、社会的性格が重要な要素になるとする。社会的性格とは、”場の空気”のようなものと理解できそうだ。さらに、「民主的社会主義」社会を目指そうとしているところは、斎藤幸平氏の脱成長コミュニズムに通じるところがあるようでなかなか興味深い。 11
★★ 長州藩
 成立から倒幕まで
三栄書房 2015年9月に、第一回「長州幕末歴史検定」なるものが執り行われたらしい。本書はそのときの公式ガイドブック(=テキスト)だったようだ。写真をふんだんに使って、わかりやすくまとめてあり、巻末には試験問題例が52問掲載されている。勉強の励みになるので、検定を受けてみようかと思ったが、残念ながら第二回以降は実施されていない。長州=山口というローカルな話題なので、人気がなかったのではないかと思う。尊王攘夷を巡って、長州だけではなく、日本中で意見が割れていたし、優勢と劣勢がたびたび入れ替わったいた様はとても興味深い。 10
★★ ライフサイクルの心理学(上・下) ダニエル・レビンソン氏 青年期でもなく、老年期でもない人生半ばにフォーカスした発達心理学に関する本。人生半ばの過渡期(40歳〜45歳)に、「若さと老い」「破壊と創造」「男らしさと女らしさ」「愛着と分離」における両極性を克服する課題に直面し、「仕事への熱意の衰えは、多くの組織で、ある一定の年齢に達すると職業の面では”行き止まり”になる地位の低い労働者に見られる、よく知られた現象である。」と言う。また、管理職の地位についている人の中には、「引退したら、利益を上げたり、生産目標を達成することに没頭するのではなく、他人のために人生の内容を向上させることに専念したいと言う。」人がいたらしい。本書は1970年頃の調査結果を元にしているが、半世紀経った今も変わらないようだ。だからこそ、事情は様々であれ、年齢をベースにしたライフサイクルには一定の発達パターンがあるという主張には頷けるところがある。 8,9
★★ 幕末の長州 田中彰氏 昭和40年発行の古い本である(ちなみに、定価は200円)。著者は昭和3年生まれの北海道大学名誉教授。山口県生まれながら、長州に肩入れすることなく、志士達を取り巻く環境を深掘っている。ひとつは、藩あるいは幕藩体制。ひとつは豪農あるいは大庄屋。さらには、一般大衆あるいは民。民衆がついてこない改革はうまくいかない。改革するためには力がいるので、権力者である藩を利用する。奇兵隊にしても、正義派にしてもバックに富豪(白石正一郎、入江和作、吉富藤兵衛ら)がいたからこそ活動できたのだろう。金の支援とともに、その富豪らは民を掌握していたので、人の支援もできたようだ。 7
★★★ 選択の科学 シーナ・アイエンガー氏 選択は本能である。本能であるが故に、選択の機会が多いと長生きするという統計もあるらしい。かと言って、選択肢は多ければ良いという単純な話でもない。著者がジャムの試食実験をしたところ、24種類のジャムを試食台に並べるよりも6種類に限定した方が、購入率が上がったそうだ。選択肢が多いと、人は迷い、決心がつかないことが多いということらしい。人は、社会体制や、民族習慣、宗教教義などによって、当たり前のこととして、選択肢を狭めて暮らしている。「能力を発揮する自由」と「束縛からの自由」の狭間で、いい塩梅で過ごすのが良さげだが、その塩梅は人それぞれだ。興味深い研究テーマだ。 6
★★★ ゼロからの『資本論』 斎藤幸平氏 以前に読んだ「人新世の『資本論』」と同様に、脱成長コミュニズムを提唱する。前著とは異なり、コミュニズムという言葉から想起されるソ連や中国の政治経済体制とは目指す姿が異なることを明確にしている。ソ連も中国もお金依存の資本主義になっており、この資本主義で礼賛されるお金(≒資本)至上主義からの脱しなければならないと説く。商品価値を使用価値だとすれば、余剰機能は不要であり、それを作るための生産性向上は間違った道であり、そのために労働が”搾取”されている現状を改めなければならないと説く。考え方としてはとても興味深い。 5
★★ 小説 伊藤博文(上・下) 童門冬二氏 あとがきが興味深い。『だから、心情的には、あまり長州人をほめたくない。』と言い、『「たしかに、長州人には人物がいたな・・・」ということは素直に感じた。』 さらに、『特に吉田松陰の純粋さには文句なしに、からだの底から感動した。』 そんな著者から見た長州人伊藤博文は、『すぐれた人々との出会いをつづけた幸福な人』とのこと。狡智な人心遊泳術に長け、異常な出世欲を持ち、女好きで悪評高い元勲像のひとつの見方を提示する。身分の低い生まれながら、登りつめた様は秀吉に通ずるところがある。 3,4
宇部と俵田三代 堀雅昭氏 福原家の家臣として禁門の変に参加した俵田直馬(勘兵衛)。その勘兵衛の戦友の渡邊恭輔は、渡邊祐策の父。祐策は沖ノ山炭鉱の創業者で、勘兵衛の子の明は宇部興産の初代社長。俵田明の子の寛夫は、宇部興産の重役を務めるとともに芸術振興に力を注いだ。その子の俵田万里子は林義郎の妻であり、現内閣官房長官である林芳正の母親。渡辺翁記念会館は、俵田明が建築家村野藤吾にその設計を依頼。俵田家が戦後、宇部興産の多角化を進めながら、宇部の地域振興をリードしてきたのは間違いなさそうだ。 2
★★ 東に名臣あり
−家老列伝
中村彰彦氏
六人の家老たちの人生を記した短編集。戦国時代の、小山田信茂(武田家)、直江兼続(上杉家)、後藤又兵衛基次(黒田家)、江戸後期の田中玄宰(はるなか/会津松平家)、幕末期の福原越後元|(もとたけ/毛利家)、河井継之助(長岡藩牧野家)。福原越後は、本藩の世子となった毛利定広の実兄であり、毛利家出身ながら、佐世家を経て、福原家の家督を相続した。藩主毛利敬親の命を受けて参戦した禁門の変の責任をとって自刃。なんとも数奇な人生である。辞世の句で、”空に立つ名は捨てがてにする”と詠み、やるせなさを表現したのだろうか。
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